「Google Latitude」で拓ける未来

 米グーグルが2月4日に発表した「Google Latitude」。現在位置情報を友人や家族で共有するサービスです。ケータイでの利用がメインになりそうですが、パソコンでもグーグルが提供しているカスタマイズ型ポータルサイト「iGoogle」でガジェット(自由に追加できる単機能のアプリケーション)として提供されており、位置情報を共有しあうことができます。

 対応しているのは「Android」、「BlackBerry」、「Windows Mobile 5.0以上」「Symbian S60」ベースで開発されたケータイ。現在は米国、英国、フランス、ドイツなど27カ国で利用可能で、日本ではまだ提供していません。Googleのアカウントでログインした後にGoogle Latitudeの機能を有効にし、サービスに招待した友人や家族から承認されて初めて利用できます。地図上に以下のように画像アイコンが現れて位置を示す仕組みです。表示されたアイコンをクリックすると、電話をかけたりメッセージのやり取りが可能になります。

 懸念されるのはプライバシーです。グーグルではオプトイン形式でユーザー自身プライバシー設定を行うこと、一時的/完全にいつでもGoogle Latitudeの利用をストップできること、などを挙げて配慮しているとしています。

 当然ですが各国のプライバシー保護団体からは早速、懸念の声が広がっています。

新サービス『Google Latitude』に早くもプライバシ侵害懸念の声

英国のプライバシー保護団体、『Google Latitude』の危険性を警告

 ネットマーケティングの技術革新はこうしたプライバシー問題との戦いでもありますので、ある程度予測されたこと。ここではGoogle Latitudeによってグーグルがどのような市場を開拓しようとしているのかを検討してみます。

 CNETの記事「グーグル、現在位置情報を共有する『Google Latitude』を発表」にグーグルの考えていることを示唆する部分がありますので引用します。

Google Latitudeは、同社の地図情報および位置情報に関するテクノロジを駆使したものとなっている。位置情報は、実生活でも、ナビゲーションを提供する上で重要不可欠であり、明らかにGoogleは現在、主に仮想世界の領域であるインターネット上で同社のサービスを利用している顧客とのよりパーソナルなコネクション確立を進めるべく、地理的サービスを提供していきたいと願っている。そして、当然のことながら、ここには金銭面での売り上げも関係してくる。Googleは、同社のマッピング技術が位置情報をベースとする広告売り上げへとつながっていくことに期待している。

 翻訳記事ですので若干分かりにくい部分もありますが、読み取れることは「リアル世界における行動履歴の取得とそれに伴う広告市場の形成」です。

 リクルートが2004年に発刊したフリーペーパー「R25」。もはや知らない人もめずらしいのではないかと思われるマーケティングの成功モデルです。All Aboutのガイド、安部徹也氏の記事「リクルートが満を持して創刊した情報マガジン 【R25】 0円週刊誌の魅力(2)」のなかで、リクルート在職時にR25を創刊したライブドア執行役員メディア事業部長の田端信太郎氏がこう語っています。

 「木曜日の夕方に手にとっていただきたいのです。」(田端さん)。この一言には深い意味が込められています。1.朝ではなく、なぜ夕方なのか? 2.他の曜日ではなく、なぜ木曜日なのか?この2点について検討を重ねたそうです。

 まず「なぜ夕方なのか?」という点。団塊ジュニア男性は、仕事時間が長く帰宅時間も遅いという特性を持っています。おそらくアフター5も仕事で削られて、睡眠も十分にとれていません。朝は、仕事でのエネルギーを維持する上でも「電車のなかで、うとうとしている」ケースが多いのではないでしょうか。朝に比べれば、帰りの電車はまだ救いがあるのかもしれません。1日の仕事が終わり、その安堵感も手伝って、ささやかな余興を愉しむゆとりも生まれます。

 R25は主に駅構内で手にとることができるので、帰りの電車のお供にふさわしいという結論に至ったようです。また、下車駅から自宅に向かうまでに、コンビニに立ち寄るケースも多く、広告効果が見込めることも見逃せません。

 つまり、団塊ジュニアの行動パターンを分析し、それに応じたパッケージ、コンテンツ、広告を設計したわけです。グーグルは、すべてのユーザーにおいてこれを実現しようとしています。

 フリーペーパーを含む雑誌、新聞、テレビといったマスメディアでは、個々人のニーズに合わせた広告配信は難しい。ただし、R25のようにリアルな行動属性に合わせたメディア展開が可能です。一方、グーグルはオンライン上における行動履歴はさまざまな無料サービスによって取得できます。ただし、リアルな行動履歴はこれまで取得できませんでした。「位置情報」の取得によって、これが可能になるわけです。

 まず、最初のステップで配信可能な広告はエリアターゲティング広告でしょう。つまり、ユーザーのいる場所に合わせて、その近辺におけるリアル店舗による広告配信です。これは既に国内ではNTTレゾナントやシリウステクノロジーズなどが広告商品として販売しています。

 次のステップがリアル行動ターゲティング広告です。現在のエリアターゲティング広告はあくまで現在地情報を取得して広告を配信する「現在地ターゲティング」に過ぎません。例えば、「渋谷にいる人に渋谷の美容室の広告を出す」ことは可能でも、その人が毎週渋谷に遊びに来る人なのか、地方から出張でたまたま渋谷にいるのかを判別していません。Google Latitudeはそれを判別可能です。つまり、位置情報を基にした行動ターゲティング広告配信が可能になります。

 ただし、グーグルはCookie(クッキー)による行動ターゲティング広告自体には否定的でした。これまでも同じセッションにおける検索キーワードを複合的に分析してユーザーが求めている情報を推測し、広告を配信するといったことはやっていましたが、記憶にある限り、Cookieベースの行動ターゲティング広告には手を付けていないと思います。

 そのため、今回のGoogle Latitudeも、Cookie×位置情報による識別ではなく、あくまでアカウント情報と位置情報をベースにした広告配信にとどめると思います。面白いアプリケーションを無料で提供し、利用の対価として位置情報を取得し、広告を配信するという姿勢は変えないでしょう。

 こうした位置情報に応じて配信する広告は、小規模の店舗であることも多いですが、グーグルの広告配信プラットフォーム「AdWords」のケータイ版にはClick-to-Call機能があります。クリックするだけで電話をかけられる機能を設けることで、Webサイトを持っていない企業でも広告を出稿できるわけです。

 広範囲で広告を展開する意味のない、小規模な店舗。チラシや看板、ティッシュといった、ある意味アナログな広告・販促手段を用いるケースが多いですが、こうした零細企業をネット広告の世界に誘導し、さらなるロングテール型の広告収入モデルを構築する。グーグルはリアルな行動履歴取得を基に、こういう世界を描いているのかもしれません。

 一つ残念なのは、こうしたケータイにおける新サービス開始国に日本が入っていないこと。ストリートビュー問題などでそれどころじゃないのかもしれませんが、日本のケータイ市場のガラパゴス化が進んでいるのを如実に表している気がしてなりません。

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